不妊症の原因と治療の進め方第5段階
(産婦人科研修の必修知識2004,日本産科婦人科学会)
上表のように病状が典型的でなかったり軽症であるがゆえに、かえって見落とされている不妊原因がないかどうかをもう一度入念に検討する必要があります。
![]() TRH(Thyrotropin releasing hormone)の構造 THR負荷テスト プロラクチン測定(前値)
↓
TRH500μg・静注(または筋注)↓
15,30、60、120分後にプロラクチン測定つまり、AIHを行うにあたり、1)精液中の精漿から精子を分離する過程で未知の不妊因子を除去できる可能性があり、2)運動性良好精子を濃縮し子宮内に注入することにより、少なくとも卵子に到達できる精子数を増加させ、効率を上げることができると考えられるからです(AHIの有効性を参照)。 クラミジア・淋病などの性行為感染症は不妊の原因となるため再検査し、必要に応じてカップル2人を対象に同時に治療を行います。また、腟炎などの非特異的な炎症があれば、頚管粘液の性状に障害をもたらす可能性があるため、積極的に治療する必要があります。 抗精子抗体の検出率は不妊症全体で男性:5〜10%、女性:7〜15%であり、機能性不妊に限るとこの頻度は3〜5倍に増加するといわれています。 抗透明帯抗体(抗卵子抗体)については、ブタ卵などを用いた実験では受精障害の原因となることが知られていますが、臨床的な意義についてはまだ明確にはなっていません。 いずれにしろ、免疫因子が原因と考えられる場合は、体外受精・胚移植などの生殖補助医療(ART)の対象と考えていただいた方がよいと思われます。 精液の状態は常に一定であることはなく、夫の体調を含めいろんな要素が影響を及ぼしていますから、定期的に精液所見について再検討を加えることも必要です。また、この際、せっかくの精液採取の機会を無駄にしないためにも、検査だけでなく同時にAIHの施行が望ましいでしょう。 また、染色体検査が未施行の場合は、1度は検討する必要があります。 当然、精子数が減少するほど染色体異常の頻度は増加し、無精子症で10〜15%、乏精子症で4〜5%とされていますが、精子数が正常の場合でも1%に染色体異常が存在する(松田他、1992)とされていますから注意が必要でしょう。 精子機能検査には、ハムスターテスト・Hemizona assay(HZA)・精子核クロマチン解析・精子膨化試験・Triple-stain法・Sperm survival test(SST)などさまざまな検査がありますが、中には複雑なものもあり検査可能施設は限られているのが現状です。 いずれにしろ、機能性不妊で治療期間が長く、男性不妊が疑われる場合は、体外受精・胚移植などの生殖補助医療(ART)の施行が望ましいでしょう。体外受精を行うことにより精子の受精能に異常がないかどうかも結果的に判定することができます。
妊娠率の向上が期待(下表)できますから、精液検査で問題があった場合はもちろんのこと、機能性不妊でなかなか妊娠に至らない場合でも施行する価値があります。 (Cochrane Library,2001)
AIHによる累積妊娠率は初回〜3回で向上しますが、その後は頭打ちの状態となりますので、通常5〜6回の施行にもかかわらず妊娠しない場合は、他の生殖補助医療 分離調製した精子と採卵により得られた卵子を受精を確認することなく、腹腔鏡下で卵管采から卵管膨大部に注入する方法です。自然の妊娠成立機序に近い妊娠であり、施設によっては体外受精より妊娠率も高いのですが、全身麻酔での腹腔鏡下処置のため手技や設備の面で煩雑であり、近年実施施設は減少傾向にあります。 なお、同様の方法で前核期卵を移植する方法をZIFT(Zygote intrafallopian transfer)あるいはPROST(Pronuclear stage transfer)と呼び、分割期胚を移植する方法をTET(Tubal embryo transfer)またはTEST(Tubal embryo stage transfer)と呼びます。 配偶子卵管内移植法
卵巣刺激法(COS:Controlled ovarian stimulation)により複数の良好な卵胞成熟を促し、経腟超音波下に採卵し、調製した精子と媒精することによって体外で受精させます。受精卵を子宮内に移植するのが胚移植(ET:Embryo transfer)であり、拡張期胞胚もしくはハッチング(孵化)胞胚まで長期培養後子宮内に移植するのが胚盤胞移植(BT:Blastocyst transfer)です。 体外受精・胚移植法
採卵や精子の調製は体外受精の場合と同様に行いますが、第2減数分裂中期の卵をマイクロマニピュレーターという装置を用いてホールディングピペットで固定した後、インジェクションピペットを卵細胞質に刺入し、あらかじめ吸引しておいた精子を注入する方法です。受精・卵割を確認した後、体外受精の場合と同様に胚移植(ET)を行います。 なお、卵細胞質に刺入するのではなく、卵細胞質の周囲にある囲卵腔に刺入する方法を囲卵腔精子注入法(SUZI:Subzonal insemination)と呼びます。 顕微授精・胚移植法
精巣精子抽出法
胚移植には1度に2〜3個の胚が使用されますが、余剰胚として残された受精卵は、患者さんの希望・同意を得て凍結保存されます。精巣生検を数カ所行い精巣組織ごと精細管を採取してくるconventional TESE(Testicular sperm extraction)と手術用顕微鏡下に精細管を観察して精子の存在する確率の高い精細管を採取する microdissection TESE があります。 精巣上体精子吸引法 手術用顕微鏡下に精巣上体管をマイクロピペットで穿刺し、内容液を吸引して精子を回収する方法(MESA:Microscopic epididymal sperm aspiration)です。 胚の凍結保存の目的としては、
ことに、流産を繰り返している不育症のカップルにとっては、挙児希望が切実であるがゆえに、統計の数字では割り切れない深刻な悩みであるといえます。 流産の約60〜70%以上は胎児(胎芽)に染色体異常があると報告されています。受精卵と出生時の染色体異常の頻度を比較すると、受精卵では 約40%に染色体異常が発見されるのに対し、出生時には染色体異常の頻度が0.6%に減少しています。このことから、もし流産という自然淘汰現象が起こらなければ、生まれた赤ちゃんの40%は染色体異常を持つことになってしまいます(大濱、1992)。したがって、1〜2回の流産を起こしたからといって、すぐに病的であり不育症であるということにはならないと考えて下さい。 ただし、不育症のカップルを対象として染色体検査を行ってみると、 約8〜10%に夫あるいは妻に異常が見出され、いずれの側に染色体異常が存在しても、その妊娠の90%以上は自然流産となってしまうと報告 (Makino et al.1990)されていますから、不育症のカップルでは夫婦そろって染色体検査を受けて、異常の有無を明らかにしておく必要があるでしょう。 染色体異常以外の不育症の原因は下の円グラフが示すように、黄体機能不全・甲状腺機能異常 ・高プロラクチン血症、糖尿病などの内分泌異常によるものが10%、子宮奇形を含めた子宮内腔異常によるものが15%、抗リン脂質抗体症候群を含めた自己免疫によるものが20%と考えられていますが、残り (牧野ら、2004)
黄体機能不全については、流産の原因として明確になっているわけではありません。可能性としては、妊娠維持に貢献しているプロゲステロンの産生部位が妊娠黄体から絨毛(胎盤)へと移る端境期に一時的なプロゲステロンの低下が起こり流産の引き金となっていることが考えられます。
治療としては、妊娠初期にプロゲステロンを投与したり、hCG筋注で妊娠黄体を賦活したりします。 高プロラクチン血症についても、妊娠中はプロラクチン分泌が生理的に亢進し、妊娠前の約10倍の高値になるとされていますから、妊娠前の高プロラクチン血症が不育症とどれほど密接な関連を持つかについては不明と言わざるをえません。ただし、習慣性流産を来した女性の10〜15%に高プロラクチン血症が見つかることから、当然発見されれば治療の対象となります。 治療としてはパーロデル・テルロン・カバサールといったドーパミン作動薬を内服することになります。 甲状腺機能異常についても、不育症の原因として直接的な証明がなされたわけではありません。甲状腺機能低下症では二次的に高プロラクチン血症が認められることや、甲状腺疾患にはバセドー氏病や橋本病のような自己免疫疾患があることが間接的に影響しているのかもしれません。甲状腺機能亢進症があれば抗甲状腺剤が、甲状腺機能低下症があれば甲状腺ホルモン剤が投与されます。 糖尿病については、胎児奇形の発生頻度が上昇することが知られていますから、このことが流産と関連を持っているものと思われます。糖尿病が発見された場合は、妊娠前に十分にコントロールを行い、正常化を確認してから妊娠することが大切でしょう。
不育症の人では、子宮卵管造影法や子宮鏡で子宮内腔に異常が発見されることがあります。発見される子宮奇形の中では、中隔といって子宮の中央に左右を仕切る壁がある奇形(中隔子宮)の流産率が一番高いとされ、中隔部分をレゼクトスコープといって子宮鏡下に切除する方法や、開腹して切除・形成する方法で治療されます。その他、子宮奇形にはいろんなタイプがありますが、弓状子宮と単頚双角子宮が手術適応となります。
抗リン脂質抗体症候群
リン脂質はすべての細胞膜に広く分布していて、ホスファチジルコリン・ホスファチジルエタノールアミン・ホスファチジルイノシトール・ホスファチジルセリン・ホスファチジルグリセロール・カルジオリピンなどさまざまな種類があります。抗リン脂質抗体症候群はこれらのリン脂質あるいはリン脂質に結合する蛋白に対する抗体を有する病態なのですが、膠原病などがあって起こってくる続発性抗リン脂質抗体症候群と、このような全身疾患のないまま起こってくる原発性抗リン脂質抗体症候群とがあります。 いずれにしろ、問題となるのは“血液凝固反応が活性化”することであり、絨毛組織(胎盤)での“血栓形成”が主病因と考えられています。この抗リン脂質抗体症候群は、不育症だけでなく、原因不明の子宮内胎児死亡・子宮内胎児発育遅延・妊娠高血圧症候群とも関連があるとされています。 検査としては、膠原病などの基礎疾患が存在することを考慮して、抗カルジオリピン抗体・抗ホスファチジルエタノールアミン抗体・ループスアンチコアグラント・抗DNA抗体・抗核抗体・免疫グロブリン・血清補体価などが測定されます。 抗リン脂質抗体が陽性の場合は、血栓形成を予防する目的で以下のような治療が行われます。 カプロシン0.2ml(5000単位)、皮下注・12時間毎 妊娠してからの投与であれば、通常バファリンとの併用療法がなされ、必要に応じてヘパリン療法も併用されます。 |